むかし、初めて飛ばしたR/C機は電動でした。でも、飛行できる時間はほんの数分だけ。大型・高性能化、そして長時間滞空させようとすると、レシプロ・エンジンにする必要がありました。模型のジェットエンジンもあったけど(笑)
エネルギー効率と一言で言っても
いま流行りの「EV自動車」もレシプロ・エンジン車に比べて短い航続距離が問題になっています。これは「充電施設」っていうインフラの問題であると同時に、自動車に積める「電池の大きさ/性能」が「ガソリンタンクの容量/性能」にはるかに及ばない、と言う問題でもあります。
EV自動車は、旧来のバッテリーよりはるかに効率の良いリチウム・イオンバッテリーが実用化されて、やっと「現実のモノ」となってきました。まだまだガソリンや軽油に比べると重量当たりの「エネルギー容量」では見劣りしますけどね。
つまり、言い方を変えると最先端のリチウム・イオンバッテリーですら化石燃料に比べると「エネルギー密度」が低い、って事であります。
JAXAの電動実験機「feather」の推進システム
と言うワケで、「軽さ」がクルマ以上に絶対的な条件になる航空機では、「電動機」実現のハードルは限りなく高いと思われてきました。もちろんヒトが乗れるヤツの話ですよ。
わたしも電動では重量の壁を超えられないんじゃね?と思いこんでいました。しかしココ数年、世界各国で電動航空機の研究が進んでいるんです。
日本でもJAXAが電動航空機の実験機を飛ばしていますし、欧州のエアバス社は電動旅客機(の実験機)を開発する方針を発表しています。
また、つい最近(と言っても2019年の一月ですが)になって日本の経済通産省とアメリカの軍需企業ボーイング社の間で「航空機の技術協力に関わる合意書」が交わされています。リンク先は英文PDFなので、経産省の仮訳を引用しておきます。
両者は、ここに以下の取組を推進することに合意する。
・両者は、航空機に関する電気推進に必要な革新的に、軽量な蓄電池、モーター又は
コントローラなどの電動化技術、高レートで低コストな複合材製造技術、生産性向
上に資する自動化技術等について協力を行う。
・日本国経済産業省は、上記の協力分野において、事業の発展に貢献しうる日本の適
切な可能性のあるパートナーを特定し、ボーイング社に紹介するなどの支援を行う
とともに、両者の相互利益の促進のため、日本企業に対して、法的権限とリソース
の利用可能性の範囲内で、必要な支援を行うように努める。
・ボーイング社は、上記の協力分野において、ボーイング社の将来の航空機輸送に関
する戦略的ビジョンを日本国経済産業省及び可能性のあるパートナーに情報提供す
るとともに技術の実用化に向け取り組むことで、協力関係の強化を目指す。
ボーイング社は電動航空機開発にあたって「パートナーは日本以外に無い」と言っておりまして、わが国の技術力、判る奴は判ってるんだねぇ…と。しかししかし、であります。
反日的経済報道がご自慢の「東洋経済」などは、知ってか知らずか?ノルウェイが電動航空機の先進国だぁ!とか言って次のような記事を書きくさるのであります。
2040年までにノルウェイの国内路線に就航する航空機を全て電動化する方針を発表した、日本は遅れている、等としたうえで…
(「日本人が知らない航空機電動化と言う新潮流」という記事より抜粋)
アビノールは2030年までに空港での燃料供給の30%をバイオ燃料にする目標も打ち出している。電気航空機では、ハイブリッド機が先行する見通しで、「われわれのハイブリッドソリューションとしては、ジェット燃料かガソリンか、あるいは水素(燃料電池)の供給か、まだ決まっていない」とファルクペテルセン氏は言う。
気になるのは、こうした流れに対する日本企業の動向だ。アビノールは、パナソニックやトヨタ自動車はバッテリー分野で期待しているというが、より航空機に近いところでは日本企業の名は聞かれなかった。考えてみれば、三菱重工業が社運をかけて開発する短距離小型航空機「MRJ」はジェットエンジンだ。世界最先端の環境立国ノルウェーと比べるのは酷かもしれないが、彼我の差を感じざるを得ない。
文中の「アビノール」ってのはノルウェイ国内の空港を一体運用する国営企業なんだそうです。儂も日本人じゃけど、航空機電動化の流れくらい知っとるわ!この掘り下げの足らぬ記事を書きやがった記者よりもな。
アルファ・エレクトロ
糞記者め、上の引用と比べて見ろ、ってんだ。だいたい、アビノール社が飛ばしてる電動航空機「アルファ・エレクトロ」なんて、二人(80キログラムまでの一人当たり重量制限付き)乗り・航続距離130キロメートルの玩具だぜ。ラグビー日本代表候補ならフミさんと日和佐クンしか乗れねえじゃん(日和佐、良いよ。彼は神戸に行って別人になったね)。
MRJと比べるのが冗談だと気づけよな。
「純」電動小型航空機はほぼ実現ですが
毎度のように「東洋経済」の反日鰤ぶりを怒っていても話が進みませんので、電動航空機の開発状況に戻ります。
現段階での電動航空機は、「純電動」と「ハイブリッド」の二種類に分かれています。まあ、クルマの電動化と同じようにお考えいただけば宜しいかと存じます。
純電動航空機の方は、レシプロエンジン機、つまりはプロペラ機の「エンジンと航空燃料」を「モーターと電池」に単純に置き換えたモノです。
バッテリーから供給される電力でモーターを回し、モーターがプロペラを回転させ、飛行します。
モーターはエンジンよりも軽く出来るのですが、電池の重量は同じエネルギー単位では航空燃料よりもはるかに重くなってしまいます。結果として純電動航空機は小型・近距離用のモノしか出来ません。
JAXAの電動実験機
ライトプレーンに毛が生えた程度の小型機しかできないのです。前述のノルウェイのんみたいにね。
ハイブリッド航空機の方は、ガスタービンエンジン等で発電し、その電気を用いてモーターにつないだファンまたはプロペラを回して飛行するっていうモノです。バッテリーは出力制御のためにいったん電力をため込む程度で良いので、軽くて済むって訳です。
タービンの回転数で出力制御しようとすると、バッテリーは不要ですが、最適回転域を外れることが多くなってしまって燃費が悪くなってしまいます。
乗客を乗せる規模の大きい航空機だと、このハイブリットにならざるを得ないんですね、現状では。
さて、この両者をもう少し詳しく見ておきましょう。
すでに小型の純電動航空機は実現目前って言いますか、技術的に大きなハードルはありません。夢もありませんけど(笑)
自動車を動かす程度の出力のモーターなら、すでに十分に実用的なものが普及価格帯に入ってます。これを使って一人二人が乗るだけの小型機なら十分に飛ばせるんです。電池も自動車を動かす程度のパワーは供給できます。
JAXAが電動飛行機を飛ばしてる、と申し上げましたが、この機のモーター出力は60キロワット(馬力換算だと80馬力くらい)だったそうです。「日産リーフ」と言う電気自動車だと、モーターの最大出力は110キロワットですから。
このJAXAの試験機は(2015年ですが)17分間飛行して成功、とか言ってます。ドイツのジーメンス社(エアバスと協同します)が自社のシステムのアピール用に飛ばした「Extra 330LE」が時速340キロメートルを達成。これは20分間の飛行を想定して設計されていますので100キロほどの航続距離ですね。実用化にはいささか短すぎでしょう。
それでも「純電動飛行機」には大きいメリットがあります。それは運行に関する費用です。
Extra 330LE
EV(電気自動車)の電気代が、ガソリン車のガソリン代よりはるかに安いのはご存じでしょう。クソ高いガソリン税を除いても、です。
航空機の積むレシプロ・エンジンは、「アブガス」と言われる航空用ガソリンを用います(低性能のエンジンでは普通のガソリンを使えるものもあるようです)。アブガスの価格は自動車用の倍以上になるそうですから、電気飛行機の動力費用の優位性は電気自動車のソレよりもさらに大きいのです。
高度を下げる時には、プロペラを風車のように廻して発電できますし。Me163の機首にもついてましたよね(笑)。
EVが、減速の際にスピードを電力に変換できる「回生ブレーキ」を備えているのと同じ理屈です。
さらにモーターはエンジンよりメンテナンス性が良いので整備の手間も省け、費用が安上がりです。
ちょっと道草して空飛ぶクルマ
一般的な航空機に比べて、小型で少人数を短い距離を運ぶ…と言うと、いわゆる「空飛ぶクルマ」を思い浮かべちゃいますね。トヨタ自動車や経済産業省が参加する官民協議会ができたりしています。
基本的には多ロータータイプの電動ヘリコプター(いわゆるドローンですね、ヒトが乗るけど)が想定されています。有翼航空機よりも俊敏な動きが要求されるので、応答性の良い電動モーターが有利ですし、経費の面でも今まで見たように電気が優位ですから。
となりますと、「小型純電動航空機」と同じように軽量のモーターと電池が「空飛ぶクルマ」実現のカギになりそうです。言い換えますと、「小型純電動航空機」開発の延長線上に空飛ぶクルマの実現がある、と考えて良いみたいです。
「空飛ぶクルマ」の運航イメージ 欧州は主翼を使う気だな。ぶつかるぞ(笑)
「空飛ぶクルマ」は4人程の乗員を考えているようですので、JAXAの実験機や「Extra330LE」と比べて重量が大きくなるでしょう。そもそも、主翼で揚力を稼ぐわけには行きませんから、たくさんのローターをぶん回す電力はいっぱい必要ですし。
電動旅客機の難しさ
「趣味で飛ぶ」人を除いて、小型しかできない「純電動」では実用的な航空機とは言えません。少なくても数十人、百人単位のパッセンジャーを太平洋を越えて運べなきゃ、商業的にも「大」成功はしないでしょうし。
それを実現できるパワーユニットが出来れば、待望の「軍用電動機」も視野に入ってこようってモノであります(笑)待ってるのは複葉好きの儂だけか…これについては後半でマッタリと語らせて頂く予定。
JAXAの試験機が60キロワット(約80馬力)だった事はお話しいたしました。それよりも高速を狙っている「Extra330LE」でも260キロワット(約350馬力)ほどの出力のようなんです。
小さければ(さらに固定翼機であれば)こんなモンで飛ぶんです。パワーにこだわる高級車やスポーツ車なら350馬力、普通に出してますよね。
LM-2500エンジン
一方、私たちが乗せてもらう旅客機のエンジンの出力はケタ違いです。
GE製の「LM2500」というガスタービンエンジン(船舶や発電用)の出力は3万馬力を超えています。このエンジンはジャンボ・ジェット用の「CF-6」とか言うジェット・エンジンを産業用に再設計したモノですから、まあ、ジャンボの「馬力」は12万馬力(4発ですから)オーバー、って言ってもあんまり批判はないでしょう。
CF-6ターボファンエンジン 上の画像と比べて、いかにファンが大きいか、ご理解いただけるかと。
こんな持って廻った言い方をするのは、ジェットエンジンの「パワー」を馬力で表すことに、ほとんど意味がないからです。
馬力とは仕事率の単位で、仕事率とは単位時間当たりのエネルギー。1ニュートン(N)の力(すなわち0.102 kg重)をかけて1mの距離を移動したら、その仕事に要したエネルギーは1ジュール(J)です。1ジュールの仕事を1秒でやると仕事率が1ワット(W)ということになります。電気だけで使うんじゃないんですよワット(笑)。
ワットも仕事率の単位でして、1馬力(PS)=0.74キロワット(KW)という換算率ですな。
ジェット機のエンジンで問われる性能は仕事率ではなく「推力」なんです。ボーイング747の初期型のエンジンの推力は、一基で209キロニュートンだったと記憶します。
だいたい20トン強ですね。つまり、20トンの重量のものをまっすぐ上に持ち上げられる力を持ってるエンジンって事。
もしもエンジンを噴射して、このもの凄い力を出した時に、機体がブレーキか何かで止められていて動かなければ、「仕事量」にはなりません。
このあたり、上手いタトエを思い付きません。たぶん、私なんかよりこのあたりに詳しい方は一杯いらっしゃると思います。フェイスブックのグループなどで解説して頂く訳には行きませんかね?
ボーイング747-200
推力20トンという、すんごいエンジンを4発もぶら下げて、東京からニューヨークまで10時間以上も飛んでトンで飛んでトンで飛び続ける長距離国際線では、燃料もトンでもない量になる道理でありまして。大型機で飛べば、100トンを超える燃料を燃やしちゃいます。
しつこいようですが「バッテリーだけ」じゃムリ
では、その長距離国際線を飛んでる大型旅客機のエンジンを「電動モーター」で代替するとしましょう。
この強力モーターを10時間以上も駆動させ続ける電力を賄うバッテリーとは、現行のテクノロジーだと、どれ程の重量になるんでしょうか?
これは(今まで何度も触れましたけれど)「エネルギー密度」の問題であります。エネルギー密度の定義もあやふやな所すらありますが、ココでは(各エネルギー源の)重量1キログラム当たりのエネルギーをワット時(=wh)の単位で比較してみましょう。
(概算:那野比古・多摩大学名誉教授による数値を丸パクリ)
ガソリン |
12,000wh/kg |
リチウム・イオン電池 |
100wh/kg (先端開発段階で200wh/kg) |
ニッケル水素電池 |
70wh/kg |
鉛蓄電池 |
35wh/kg |
高圧(200気圧)水素 |
165wh/kg |
如何ですか?桁違いも良い所ですよね。成田~ニューヨーク間の飛行で約100トンのジェット燃料が消費されると申しあげました。
かりに、成田~ニューヨーク間を結ぶ「リチウム・イオン電池式電動旅客機」を作ったと致しますと、電池の重量は12000トンオーバー!となりますな(笑)。
ボーイング747-400、いわゆる「ハイテクジャンボ」の国際線仕様ですが、この巨大なベストセラー旅客機でも最大離陸重量は400トンを切っています。12000トンの電池が、いかにヘビーか、お判りいただけるでしょう。
「純電動航空機」では太平洋は渡れません、現状では。これでは、夢も希望もありません。
「いかなる状況に追い込まれようとも、僅かでも状況を好転させる術を見出すモノこそが名将と呼ばれる」が電脳大本営の信念でありますので、名将気取りで打開策を提起しておきましょう(笑)
実用化が期待されている「近未来の電池」二つであります。
リチウム・硫黄電池 |
1,000wh/kg |
リチウム・空気電池(一種の燃料電池) |
5,000wh/kg |
どちらも空想科学とは縁もゆかりもない、「あと少しで実用化出来る」技術です。
リチウム・空気電池なんか、アメリカで特許取ってますし、我が国の技術でその特許を回避した「新・リチウム・空気電池」も出来そうなんであります。
この新技術によって「桁違い」は一桁だけになりそうですけど、まだまだガソリンの代替というのには少々お粗末ではないでしょうか。
燃費も悪いし環境にも悪い
こういった次第で、旅客機とか爆撃機のような大型機の電動化は、ガスタービンエンジン(ジェットエンジンの一種と思えば大過なしです)で発電しつつ、モーターの力を推進力にする「ハイブリッド機」になるわけです。
エネルギー源としては電池よりもはるかに軽量のジェット燃料を持って飛び上がり、ジェット燃料で発電をして、モーターを回すという発想であります。
発電しつつ、エンジンの力も走行に使うハイブリッド車とはやり方が違います。電気式ディーゼル機関車やらターボエレクトリック推進方式の船舶に近いもの。
この方法なら超大容量の重たい電池は不要ですから、現実性はぐっと高くなります。
エアバス社はリージョナルジェットの「BAe146」にガスタービンと発電機を積み、4基のエンジンのうち1基をモーターに置き換えた試験機を開発すると発表しています。
BAe146
しかし、何のためにそんなややこしい事をするんでしょうか?航空機は軽量であることがキモ。素直にガスタービンをジェットエンジンとすれば、モーターや配線は要らないんですから。
余分な重量を積めば、機体構造もその分堅牢にしなきゃいけませんので、なおの事重い飛行機になります。
電気で飛ぶとは言っても、化石燃料を燃やしてるんですから二酸化炭素の排出量が減るワケでもありません。「BAe146」を改造したエアバスの電動航空機の試験機は普通の「BAe146」より環境に悪いんですよ。
実のところ、ハイブリッド機が目指しているものは、モーターで飛行することによってのみ可能となる「効率化」であろうかと存じます。っていうか、現行のジェット・エンジンは意外な事に大変な非効率のエンジンなのであります。
BAe146改造の実験機
旅客機を飛ばすジェット・エンジンの主流になっております「ターボファン・エンジン」は、ガスタービンの前方にタービンの軸とつながった大きなファンが付いています。ターボファン・エンジンの主たる推進力はこのファンによって生み出される、比較的にゆっくりした空気の流れです。
ターボファン・エンジンにおいては「ジェット」の噴流はタービンを廻して空気と燃料を圧縮すると同時にファンを回転させるのです。もちろん、排気される早い空気の流れも推力を生みますが、これは全体の2割弱。ファンの回転によるゆっくりした空気の流れが8割以上の推力を稼いでいるんです。
ゆっくりした空気をたくさん流す方が、速い排気を少量流すよりも推進効率が高いのです。ですから、ターボファン・エンジンはファンをより大きくする方向で発達してきました。
ジェットエンジンの種類
しかし、ファンを限りなく大きくすることは出来ません。ファンを大きくすれば、ファンだけじゃなくてファンケースも大きくなり、重量がかさみます。
ファンの最適回転速度と、ファンを回転させる動力のガスタービンの最適回転速度が違うために、現在のターボファン・エンジンはファンの回転速度が最効率にはなっていません。
大きくなったファンの先端の速度は、音速を超えてしまいますので、空気を後ろへ送り出す効率が上がらなくなります。
おーっと、何処かでいつか聞いたような話になってきましたぞ(笑)電脳大本営の守備範囲に入ったかも。レシプロ・エンジン機のスピードはコレ(ペラ先端の音速超え)で打ち止めだったよな。
つまり、ジェットエンジンのうちで最もスピードと燃費のバランスが良いとされている「ターボファン・エンジン」はもう性能発展の限界に達している、と思われるのです。
私の見るところ、「航空機の電動化」は環境に配慮しているなどと言う生っちょろいモノではなく、さらなる高性能化を目指した「前向き」のチャレンジなんであります。
電動化すれば、ガスタービンを発電専門にして、推力を電動ファンで生み出すことができます。効率が悪い「速度の速い排気」を使った2割分を、効率の良いゆっくりした大量の流れ」に変えることが出来ます。小型のファンを多数並べることが可能ですから、大型のファンを使うデメリット(ファンの先端速度が音速を超える・装備位置が限定されるなど)を解消できましょう。
最も推進効率の良い速度でファンを廻す事も可能です。
さらに革新的な航空機へ
航空機の電動化の狙いはコレだけではありません。
タービン駆動の大型ファンから電動ファンに変更すると、配置が自由にできるようになります。主翼の先端部分にファンを配置することも可能です。右翼先端のファンを速く回し、左翼のファンをゆっくり回せばと機は左に旋回します。
もちろん、方向舵を操作しても可能な操縦ですが、舵面を動かせば抵抗が生まれてしまいます。ファンの回転数を操作して操縦できれば、抵抗を生むことなく操縦できるんです。
むかし、タイヨーが出してた「2chプロポで上昇下降・左右旋回可能な電動RC機」を思いだすなぁ。双発で、コントロールするのは左右のモーターに直結のプロペラ回転だけ、ってヤツ。「模型未満・玩具以上」って評価してたけど、今思えば…
小型の電動ファンは沢山配置できますから、機体を傾けたり、上昇下降なども舵面を動かさずに可能になるでしょう。
さらに航空機の表面には空気との摩擦で「境界層」というよどんだ空気の流れができています。この「境界層」は抵抗を増やしてしまうのです。
胴体後部に、表面の空気の流れを吸い取るようにファンを配置してやれば、境界層を除去して抵抗を軽減できます。こんなファンの配置は、ターボファンエンジンではとても無理です。
JAXAの電動旅客機構想図
電動化することで可能となる効率化をふんだんに盛り込むことで、モーターと配線分の重量増による「燃費悪化」を超える効率向上が目指せる「かも」知れません。これが航空機ハイブリッド電動化のコンセプトなのでしょう。
電動化だけではない領域へ
ハイブリッド電動化で成し遂げることが出来そうな飛行の効率化を以上に上げましたが、あくまでも「理論上は」であります。実際に思った通りに効率化できるか?は実証実験を重ねていかなければなりません。
一方で既存の「ターボファン・エンジン」の効率化も、全く無いワケではありませんから、それ以上の効率化を達成する必要があります。
例えば、ターボファンの回転数の最適化では、「減速ギア」という解決策が実用化されています。新型のエアバス「A320neo」や三菱飛行機の「MRJ」では既に使われている技術ですが。
ファンやファンケースについても、素材をチタンから炭素繊維複合材に置き換えることで軽量化されてきています。
それでも、我が国は新幹線や省エネ電車・ハイブリッド自動車など、電動化技術が大得意であります。「航空機電動化」は日本にとって巨大なビジネスチャンスなのです。
ボーイング「sugar_volt」
せっかく、アメリカのご要望を頂戴していますので、この「ハイブリッド化」プロジェクトは絶対に成功させなければなりません。それも動力部分だけじゃなくて、機体部分にも食い込みたい所です。
電脳大本営は、そのための突破口をちゃんと見つけたんであります。
ボーイング社が次世代航空機として考えている計画に「SUGARプロジェクト」ってモノがあります。「Subsonic Ultra-Green Aircraft Research」です。この「亜音速で環境に優しい民間旅客機研究」にはNASAも絡んでるので、一民間会社の開発計画じゃなくて、完全に国家プロジェクト。
この「SUGARプロジェクト」では、「支柱付き主翼(truss-braced wing=TBW)」なる新機軸を採用することになっております。今の旅客機の主翼(片持ち翼)よりも5~10%燃費を改善する事が狙いだそうです。
この燃費改善はアスペクト比(AR)の増大によるモノと思われます。航空機の場合「アスペクト比」とは主翼の翼幅の二乗を翼面積で割った値。
「細長い翼」ほどARの値が大きくなり、翼端に生じる「回り込み渦」⁼翼端渦流による誘導抵抗が少なくなります。その結果(高性能グライダーを思い浮かべて下さい)揚力/抗力の値が良くなるんですね。
従来の大半のジェット旅客機のアスペクト比は大体9前後でしたが、強度の高い炭素繊維複合材を使っているボーイング787やボンバルデイアCシリーズなどでは11程度まで増大しています。
飛行機の主翼って言うのは、胴体以上に構造が難しいモノです。主翼は揚力を生み出すだけじゃなくて、飛行機全体の重量を支えなければなりませんから。それでいて厚みをむやみに取れるワケじゃありません。
つまり、細長くすれば揚力/抗力比が良くなり、航空機の性能アップに繋がることは判っていても、めったやたらに細長い翼が出来るモノではないのです。
材料面でも、構造技術の面でもまだまだ未熟だった航空機の黎明期に「複葉機」が多かったのも、ココに大きな原因があります。
複葉機では長い翼を作らなくても翼面積を大きく出来ますから、揚力を稼ぎやすかったのですね。ところが、複葉機は抵抗が大きくて速度は出ない。
実は、複葉の抵抗が大きいのは二枚の翼そのものよりも、張線が原因でありまして、単葉であっても、張線がいっぱいあれば複葉以上に抵抗が大きい機体もありました。
私たちが良く知っている第二次大戦期の軍用機が、究極のレシプロエンジン機にまで性能アップしたのは「単葉化」よりも「片持ち翼化」の効果の方が大きいのです。
この「片持ち翼構造」でも不可能なほど、アスペクト比を大きく取り、揚力/抗力比を改善しようというのが「支柱付き主翼(truss-braced wing=TBW)」の狙いなんだろうと思われます。
TBWであればアスペクト比(AR)は20~30まで伸ばすことが可能だと思われています。電脳大本営はココに日本勢の付け目があると思っているのです。
だって、この「支柱」。少し工夫すれば「2枚目の主翼」になりそうではありませんか?
我が帝国はたぶん、「複葉機で敵の一線戦闘機を撃墜した」最後の国ですからね。
F6Fを撃墜した複葉機「零式観測機」
まずは民間機からでも、複葉機を復活させるのは我が国を置いて、他にあるわけがありません(笑)
いつも興味深く読ませていただいておりますがこのたびのはことのほかエキサイティングで令和のはじめに読むのにふさわしい良いものを拝見させていただきました。