そうりゅう級はどれほど凄いのか?
初の大型兵器輸出かと思われた、オーストラリアへの「そうりゅう級」潜水艦輸出。フランスの提案に敗れて失敗に終わりました。
残念であると同時に、「貴重かつ高度な潜水艦の技術が流出しなくて良かったじゃん」というのが大方の反応のようですね。
では、その「そうりゅう級」における日本独自の「貴重かつ高度な」技術とは何なのでしょう?
潜水艦能力くらべ
まずは「そうりゅう級」がどれほどの超絶的な性能を持っているかを検証してみましょう。実は大したことないんですよ、見方によればですが。
あるサイトの評価が中立的なのでこんな表を頂戴してきました。
各国の潜水艦の能力を五つの観点から点数化したものです。
隠密性 | 潜水能力 | 行動範囲 | 戦闘能力 | 拡張性 | |
そうりゅう | 8 | 9 | 10 | 7 | 9 |
212A(ドイツ) | 10 | 10 | 7 | 7 | 7 |
ラーダ(ロシア) | 9 | 8 | 7 | 10 | 8 |
スコルペヌ(フランス) | 7 | 8 | 6 | 7 | 6 |
ゴトランド(スウェーデン) | 8 | 7 | 5 | 5 | 5 |
元(039A/支那) | 6 | 6 | 7 | 7 | 6 |
キロ(ロシア) | 7 | 4 | 8 | 8 | 3 |
コリンズ(オーストラリア) | 5 | 4 | 9 | 8 | 1 |
バージニア(アメリカ) | 7 | 12 | 15 | 12 | 6 |
*バージニア級のみ原子力推進
「隠密性」は、航行中どれだけ静かか?はもちろんですが、排熱の少なさも考慮されています。見つかりにくいかどうかというのは潜水艦を運用する上で最も重要な要素ですね。
「潜水能力」は、可潜深度や連続潜航時間を評価。つまりどれだけの時間、どれくらい深く潜っていられるか?です。
深く潜れば多少音を出しても見つからないし、長時間潜り続けていれば見つかる可能性は低いからです。
「行動範囲」は、航続距離や行動可能時間を考慮しています。日本の潜水艦の場合、敵地深く侵攻するための能力ではなく、基地へ帰らずに侵入してくる敵艦を哨戒し続ける能力、ってことになりますね。
「戦闘能力」は、火力だけでなく索敵力も意味しています。
「拡張性」については今現在の戦力とは関係ないのかもしれません。
潜水艦は無理の上に無理を重ねている軍艦ですから、水上艦より寿命が短いもので、20年くらいで更新されます。
しかし、トン当たりの建造費は水上艦よりはるかに嵩みます。さらに水上艦だってハイテク化によって建造費が高騰しています。
潜水艦の建造費は言うまでもありませんから、将来も活用できるかどうか?はこれからの潜水艦評価の大きな要素です。
総合優勝は
1位-43点: そうりゅう(日本)
2位-42点: ラーダ(ロシア)
3位-41点: 212(ドイツ)
4位-34点: スコルペヌ(フランス)
5位-32点: 039A (中国)
6位-30点: ゴトランド(スウェーデン)
7位-30点: キロ(ロシア)
8位-27点: コリンズ(オーストラリア)
原潜-53点: バージニア(米国)
総合的に見てそうりゅう型潜水艦が最も優れているという結果になりました。
この表ではわざと抜いてあるのか?フネの大きさが書いてないので、下に紹介しておきます。すべて水中排水量、つまり全没した時の排水量です。
水上艦と違って複殻(かそれに近い)構造になっていますし、甲板上は使えないし、動力部分は大きくなるし、水上艦の半分以下の居住性だと思ってください。
そうりゅう級4200トン、212A級1800トン、ラーダ級2700トン、スコルペヌ級1800トン、ゴトランド級1500トン、元級2400トン、キロ級3000トン、コリンズ級3300トン、バージニア級7900トン。
やっとそうりゅう級の「すごさ」が出てきましたね。通常動力艦のなかでは飛びぬけてデカい。
大きいことは長い航続距離、長期の作戦行動、大量の兵器搭載を可能にしてくれます。
その代り、ふつうなら被探知性が上がってしまいます。
フネを動かす動力を大きくすれば、音がどうしても大きくなりますし、水面にある時は電波をはね返す面積も大きくなります。水中でも、水をかき分ける体積が大きいわけですから、騒音も大きくなる道理なのです。
そう言った不利な条件をはねのけて、高い隠密性(私はラーダ級より劣っているとは思えませんので、9点あげたいんですけど)を実現。
戦闘力については、継続戦闘能力と探知能力を考慮してないんじゃないかと思います。電脳大本営的にはこれも9点あげておきます。
ラーダや212も優秀ですが、そうりゅう級ならラーダや212に求められる任務を遂行出来るのに対し、ラーダや212では行動範囲が狭いためにそうりゅうに求められている任務が出来ない可能性は高いといえましょう。
結局「日本の独自技術」とは
はっきり言って、「デカい潜水艦を造る」ことに尽きるのです。
X字型の操舵翼にしても、AIP推進にしても212A級が採用してますし、そうりゅう級がトップランナーってわけでもありません。
この辺りは大東亜戦争時の日独潜水艦の違いと全くの相似形です。
広大な太平洋で行動する日本の潜水艦の宿命なのかもしれませんね。
日本は潜水艦に行動力や航続距離を求めたのに対して、ドイツは狭く船舶が密集する大西洋で行動するための隠密性能を重視したんです。
ただ大東亜戦争のころから、我が国の技術が飛躍的に進歩して、隠密性を犠牲にすることなく大型潜水艦を実現できるようになった、ということなんです。
大きな潜水艦を作ることは大した技術なんです。
大東亜戦争で勝利したアメリカ軍が、伊400型をハワイに運んで徹底解剖したのも、自分たちの技術では建造できない大きさだったからだと推測できます。
その伝統を引き継いだのが、そうりゅう級だと言うわけですが、なんだか物足りなくないですか?
わが日本の主力潜水艦の超絶性能がデカいだけ?って。
公表できない「トンでも性能」がある?
私たちのような軍事マニアだけじゃなくて、海上自衛隊の潜水艦乗りたちにもそうりゅう級に対する「超絶技術信仰」が存在しているみたいです。
火のないところに煙は立ちません。
そうりゅう級には何かあるのではないでしょうか?
表面に出ている、公表されているスペック以外に超絶的な性能が…
(以下は沢渡の妄想が多分に入りますので、そのおつもりで)
潜水艦は潜水艦を撃沈できるのか?
潜水艦について語っている人から、良く「○○型潜水艦に対抗して✖✖型潜水艦を配備」なんて話が出てきます。
まあ、戦闘艦艇はなんでも「戦艦」って書くマスゴミなら仕方ないですが、軍事を少しでもかじった人が言うのは頂けませんね。
なぜかと言うと、潜航中の潜水艦が同じく潜航中の潜水艦を撃沈した事例は世界を見回しても、歴史を通じてたった一度しかないからです。それも偶然に探知できた、浅海面をシュノーケル航行していたところを撃沈したんです。
実際には、現代にあっても潜水艦が敵国の潜水艦を探知・補足して行動を制約する、あるいは撃沈してしまうことは難しいのです。たしかに、上記の表でも上げているヴァージニア級などは潜水艦狩りも任務に加えられているとされますが、それは比較的動かない戦略原潜の監視任務のこと。
残念ながら、「味方の水上艦艇を脅かす敵の潜水艦がいるぞ、コチラも潜水艦を投入して敵の潜水艦を撃沈しよう!」という使い方は出来ません。
また、水上艦艇をすべて潜水艦に置き換えようと言う動きは世界中探してもありません。
それは何故かというと、通信と探知の手段が極端に限られてしまうからです。
水中では電波は基本的に伝播しませんから、無線通信は出来ませんし、レーダーはパッシブでも使えません。
上空からなら地磁気の乱れ(潜水艦はけっこう大きな鉄、または非磁性体のカタマリですからね)を測る方法もあります。MADと言われて大東亜戦争末期から実用化されて戦果を挙げていますね。
ソノブイを幾つも投入する方法もありますが、これも足の速い航空機ならでは。そうそう、上空からだと目視で潜航中の潜水艦を発見した事例はいくつもあります。
そんなわけで、潜水艦狩りは潜水艦ではなく、航空機と航空機を搭載した水上艦艇のお仕事なんです。
潜水艦と通信するには
水中での電波は極端に減衰しやすいので、通常の短波・超短波などの通信は潜水艦に対してはほぼ不可能です。
「こら、沢渡!ラジコン潜水艦はちゃんと操縦出来てるじゃねえか。」とのお叱りが聞こえてきそうですが、あれは水面下2~3メートル。こんなのは海面上からでも視認されちゃいます。ちなみにラジコン潜水艦は実際の潜水艦には不可能な「宙返り」が出来ます。
極端に減衰しやすいって言ったでしょ。全く絶対に通信できないわけじゃあありません。
フェイスブックのグループで、潜水艦の艦首からなが~いケーブルを流して通信は可能、とか講釈してくださった方もおられました。
電波の波長が長ければ長いほど水の影響を受けにくく、より深くまで電波が到達できる、ということをちゃんと理解できておられなかったようですね。
残念ながらこの方法では超長波 (VLF)の受信はできますが、到達するのは海面下10メートルくらいが限界です。深海に潜んだままで、潜水艦隊司令部からの命令を受領ってワケにはいかないのです。
送信するには巨大な地上アンテナ施設(延長数百メートルに及びます)を準備するか、E-6マーキュリーみたいな空中通信中継機(TACAMO機)を使って空中に長いアンテナをぶら下げてやる必要があります。
電波は波長が短いほど、乗せられる情報量が多いんだそうです。つまり超長波では送信できる情報量はとても少なく、時間も掛かってしまうのです。
しかも、潜水艦からの発信は出来ません。これではマトモな通信とは言えませんね。
ではもっと波長が長い極超長波 (ULF)を使ったらどうなんでしょうか?
極超長波なら海中深くまで到達することが出来ます。潜水艦は最大潜行深度付近で受信可能なのです。ただ送信できるデータ量は超長波に比べても非常に少なく、時間もたっぷりとかかってしまうのです。
一説にはテキスト3文字で15分と言われています。
また、極超長波は送信するために、全長数十kmもの巨大なアンテナ施設が必要です。もちろん陸上からの単方向通信で、潜水艦からの送信は不可能です。
といったところが、現代の潜水艦の通信事情なのですが…
そうりゅう級にはネットワーク接続のための端末が
毎度お世話になっているWikiに、今回もご活躍いただきます。
そうりゅう級の解説の一部を引用させていただきます。
少し長く、例によって判りにくい文章ですがご辛抱ください。(少しでも判りやすくなるようにと沢渡が勝手に改行しておきました。
装備面での最大の変化がネットワーク化である。
海上自衛隊の潜水艦では、ゆうしお型(50SS)より潜水艦指揮管制装置(05SSでは潜水艦情報処理装置)を導入したものの、これは基本的に武器管制システムおよび魚雷発射指揮システムであり、情報処理は各センサーが独自に保有するデータベースによって個々に行われていた。
これに対し、本型のシステムでは、主要なセンサーや武器が基幹信号伝送装置(SLI)と称される二重の光ファイバーによるLANによって連接され、情報処理装置(Target Data Base Server, TDBS)をサーバとして、情報管理を共通化している。端末装置としては、水冷式の潜水艦情報表示装置(MFICC)が6基配置される。
また、これらのネットワーク化システムによって生成された情報を意思決定に反映するためのインタフェースとしてZQX-11潜水艦戦術状況表示装置(Tactical Display System, TDS)が導入された。ここにセンサー情報や航海情報、さらにはMOFシステムから配信されるノンリアルタイムの情報まで全てを集約することで、従来の対勢作図盤よりも多くの情報を迅速に表示できるほか、乗員間での共通戦術状況図(CTP)や共通作戦状況図(COP)の生成も可能となった。
また艦外のネットワークへの連接のため、ZYQ-31 指揮管制支援ターミナル(C2T)が搭載された。これはおやしお型後期型から装備化されたものであるが、同型はネットワーク化されていないために、C2Tで得た情報はその端末上でしか表示できなかったのに対し、本型ではC2TとTDSが連接されたことから、TDSの画面にその情報を重畳表示できるほか、SLIを介して各コンソールでも見られるようになった。また、艦の情報を上級司令部に送信することもできる。このほか、7番艦からは新たなXバンド衛星通信装置が装備された。
太字も沢渡の独断です。このWikiの解説は防衛省発表のそうりゅう級の諸元を参考にしていると考えて間違いなさそうです。
潜水艦の通信について、ちゃんと読んでくださった方には「何だかヘン」と思っていただけるんじゃないでしょうか?
テキスト3文字に15分もかかり、潜水艦からの送信は不可能なはずなのに。
上級司令部や僚艦とやり取りする戦術情報には、自艦の位置・状況のほか敵艦の位置や艦種、進行方向、速度などさまざまな情報が含まれ、通信の圧縮技術でどうにかなるような量ではありません。
電脳大本営は、そうりゅう級では何らかの形で「潜水艦通信」の革命を起こしたのでは?と推測しているのです。