ランチェスターの法則
電脳大本営は「軍事ブログ」でありまして、武器兵器から戦略戦術まで、難癖付けちゃあ喜んでいる質の悪いヤツであります(笑)
で、今回は「ランチェスター戦略」をおちょくってみよう、と言うワケです。企業の経営戦略の話じゃありませんからね(笑)
ランチェスターさんはどんな人か?
だいぶん前に、FBのさる軍事グループでIさんの詳細な解説があって、どなたもワリと理解し易かったと思うのですが。
電脳大本営はミリオタの方はもちろん、そうじゃない方もお読み頂いてる様なので、もっともっと簡単に「ランチェスターの法則」を解説してイチャモンを付けてやらなくちゃ!と考える次第です。
しかも多くの戦術論と同様、ランチェスター戦略とか言ってビジネスの指南書をでっち上げて金儲けする輩までいる。儂も買ったが、屁の役にも立たん(儂の読み方が悪く、実行力が無いだけかもしれんが)。
こんなん、貶し倒しておくのが世のため人のため(笑)ってもんだ。
十九世紀の中頃、大英帝国でフレデリック・ウィリアム・ランチェスターというお方がお生まれになりました。ランチェスターさんは順調に成長なさって技術者兼経営者となられます。
フレデリック・ランチェスターさん、20世紀に入ると「Lanchester」と言うブランドの
「独創的なメカニズムを備えた先進的な自動車を製造販売(Wiki丸パクリ)」
する自動車会社をお立ち上げになられたのです。
ところがこのクルマ、まったく売れませんでした。
クルマが売れるためには、独創や先進だけじゃない、いわば「感性」の部分も大切ですからね。
ランチェスターさんはこういう部分が致命的に欠けていたんじゃないか?と思っちゃう次第であります。
これ、わたくしめのただの想像・邪推・あてずっぽうみたいなもんですが、けっこう重要な(範囲が広すぎてごめんね)邪推じゃないかと思うんですね。
まあ、それはさておき、ランチェスターさんのエライのはさっさと自動車事業から撤退しちゃった事であります。
経営者にしろ、軍事の指導者にしろ、撤退のタイミングを的確に判断できるのは名将の所以でありますからね。
どうせ儲からない自動車会社を売り払ったお金で、ランチェスターさんは研究生活を続け、「三次元翼理論(ランチェスター=プラントル理論・揚力線理論)」なんてぇモノを発表したりするんでありました。
儂の様な爺には理解できていませんが、揚力に関しては割と重要な「理論」らしいです。
ランチェスターさん、これで止めとけば良かったのに、得意分野以外に手を出してしまうんであります。
「ランチェスターの法則」誕生
1914年に第一次大戦が始まりました。国家の命運をかけた大戦争は、ありとあらゆる「技術」を動員するモノであります。
当時はまだ飛び始めたばかりの航空機も例外ではあり得ませんでした。航空機を戦争で使えば、すぐに航空機同士が相戦うようになります。
ランチェスターさんはご自分が研究なさっている航空機同志の新しい戦いに大いに興味をかき立てられたようなんですね。
航空機同士が戦闘することによって、どんな損害を受けるのか?
対決した機数や性能、その時の損害の多寡やダメージの大小を調査して、ついに戦闘に関する二つの法則を発見しちゃったんであります。
陸戦を研究した、なんて説もありますがランチェスターさんはクルマを作ったものの、陸戦はご専門じゃないからねぇ。
航空機同士の戦いを研究して、陸戦に敷衍した、ってのがホントのところでありましょう。
これが「ランチェスターの法則」と呼ばれているモノであります。
Wikiによりますと、この法則は
「日本では軍事より経営論として有名である」
そうです。小難し気な方程式が書いてあるのに、文系・運動会系の儂が知っているのはそういうワケなのか!
んなワケではありませぬよ。
「ランチェスターの法則」はあくまでも軍事理論です。
軍事理論も「戦術論」でありまして、決して戦略論ではありませぬ。
この辺りを、論者の皆さんは大いにお間違いになっておられるようです。
「ランチェスター」とくれば、後ろに「戦略」とつけるでしょ、皆さま(ちなみに「ランチェスター系経営論」がどれも儂を納得させぬのはこのためであります。「経営論」ではなく「販促策」と名乗れば認めてやるのですが)。
「ランチェスターの法則」の内容
さてそのランチェスターの法則でありますが二つございます。
まずは第一法則ですね。この法則が成立するには四つの条件があるんですね。
つまり偉そうにランチェスターの法則っていっても、「絶対的な法則」じゃないんです。一定の条件の元のみで有効な法則です。
この点も、ランチェスター系経営論者さんが都合良くお忘れになっちゃう点であり、戦術家の皆さんもどういうワケか失念したフリをなさる部分であります(笑)。
さて肝心の条件です。
一、A軍とB軍が戦うとき、互いを有効な視界・射程内に収め相互に射撃をする。
二、両軍の戦力は武器の性能・兵員の質によって決まっているけれど、戦闘時の効果はそれぞれ異なっている。
三、両軍とも相手が展開している場所の情報を持っていない。なので、効果のほどは判らないが敵の展開範囲(と思われる)全域に対して射撃する。
四、両軍がいったん戦った後に残る兵員(部隊)はそのまま戦場に残るが、その形は定型でなく様々である。
もう難しくなってきましたね。
二と四なんて「日本語かいな?」と思ってしまいますが、一応これでも3冊ほどの参考書から私めが「意訳」してます。その努力を重ねてこの程度。
「ランチェスター系経営論を実践してみたけど上手くいかねえ、嫌になっちまう。」ってお悩みの皆さん、ご心配なく。
決してあなたの能力故の問題ではありませんから。この程度ですからね、元ネタが。
まあ、深く考えて悩むことは止めておきましょう。要は「A軍とB軍がいて、比較的狭い場所で対峙して戦い始める」って事です。
ランチェスターさんの偉いところは、この結果が方程式で示せる、と喝破したところであります。
つまりオペレーション・リサーチ(OR)の嚆矢でございますね。
その方程式とは
Ao-At=E(Bo-Bt)
文系の方に振り切れている儂の様な爺でも理解できますから、ご安心のほどを。
AはA軍、BはB軍です。oは「最初にいた人数」でtは「戦いの後に残った人数」を表しています。
ですからAoは「A軍の最初の人数」で、Atは「A軍の生き残った人数」です。Bについても同様です。
つまりこの式は戦い済んで生き残った人の数を表してるんだな、と言うワケであります。
では「E」ってなんじゃらほい?
Eは「武器の性能比」でして、ココも安モンの経営論だと「武器の性能」とか「武器の質」なんて書いてあったりしますが、あくまでも「性能比」です。
だって次の式で求められることになってるんですから。
E=B軍の武器性能÷A軍の武器性能。
A軍もB軍も同じ(性能の)武器を使うなら、E=1÷1、つまり武器の性能比は1ってことです。E=1ですね。
また、その軍の「戦闘力」全体を数値化する式として、ランチェスターさんは次のように仰います。
(軍の戦闘力)=(武器性能)×(兵員数)
カッコでくくると、なんだか本格的な数式っぽくてカッコ良いでしょ(笑)科学的な根拠はありませんよ。
ドラゴンボールのスカウターじゃあるまいし「我が軍の戦闘力は一万じゃ、戦闘力千のゴミ敵軍を蹴散らせ!」なーんてね。
この式の意味する所は両軍が同じ性能の武器で戦った場合は「兵員数」が多い方が「戦闘力」が高い事を表しています。
それだけでは無くて「兵員数」で劣っていても「武器性能」で補える、ということが判ります。科学的な根拠は皆無ですけどね。
「経営論」ではこれと後述の第二法則をあわせまして
「圧倒的なシェアを持つ企業に対して、自社の技術的アドバンテージを持つニッチな分野で勝負を挑む」
なんて「策」を導き出すんですが…そんなモン、ランチェスターさんを持ち出さんでも判るだろうがよ。
軍事に限って例を上げてみましょう。A軍は6000名、B軍が3000名の軍勢だとします。
武器は全く同じです(という事は内戦か?とか考えるんじゃないよ)。
A軍がB軍を全滅させるとA軍は何名残るのか、つまりBtを0(全滅)としてランチェスターさん方程式に当てはめますよ。
Ao-At=E(Bo-Bt)ですから、
6000-At=1(3000-0)
6000-At=3000
At=6000-3000
つまりA軍は3000名が残るって計算であります。
人数の少ないB軍は武器性能が一緒だと、どうやっても全滅は免れない、と言う事です。
B軍が勝利するには武器性能で相当上回らないといけない、ということでもありますな。
数式を使う必要があるんだろうか?要は一人一殺じゃん。
ランチェスターの第二法則
めんどくせえ事考えんでも、個人的に同じ戦闘力を持つもの同士がぶつかるんだから、両軍ともに同じだけの戦死者が出る、ってだけのことですね。
当然のように思えますけれど、歴史はそんなに単純では無い事、私たちは良く知っています(笑)
では逆にB軍がA軍を全滅させるにはE(武器の優秀さ)がどれだけあれば良いのか?
B軍が大損害を出しながらもA軍を全滅させるという「ギリギリB軍勝利」で計算してみましょう。
B軍は1000名が生き残るとします。通常、2/3の兵員が死亡したら、その部隊は「全滅」扱いですけど。
6000-0=E(3000-1000)
6000=Ex2000
E=6000÷2000=3
どうです?E、つまり武器性能比は3となります。
B軍はA軍の武器より「3倍の性能を持った武器」で戦えば、2/3の兵力を失いながらも、大軍に勝利出来るって計算です。
これが「ランチェスターの第一法則」と呼ばれているもの。凄い胡散臭さでしょ?
ココには指揮の優劣、情報通信の優劣などは全く考慮されてませんしね(笑)
文句ばっかり言ってないで第二法則に参りましょう。
ランチェスターさんの偉いところは、戦闘を定量化して見せてくれたところにあるんですからね(笑)
第二法則が成立する前提条件として、ランチェスターさんはまたまた四つを上げています。
一、A軍とB軍が戦うとき、互いを有効な視界・射程内に収め相互に射撃をする。
二、両軍の戦力は武器の性能・兵員の質によって決まっているけれど、戦闘時の効果はそれぞれ異なっている。
三、両軍は相手の状況が分かっていて、戦場の相手に対しピンポイントで攻撃を行う。
四、両軍が戦った後に残った兵員(部隊)は、同じように残った相手部隊に対し均等に攻撃を行う。
もういいや!とか仰らずに。前提条件の三と四が第一法則とは違っていることにご注目頂きたいのです。
第一法則では「敵が向こうにいるのは判っているけど、どんな陣形に布陣してるんだか不明。」だったのですが、第二法則では「敵の位置や配置が判っている」と情報が正確になっています。
一度ぶつかった後ですから、残った敵の位置も判っているワケでして。
つまり第一法則ではメクラ撃ちでムダ弾の多かった射撃が、第二法則では正確でムダのない射撃が出来るようになりました。
ランチェスター先生はこれも方程式で表して下さいます。
Ao×Ao-At×At =E(Bo×Bo-Bt×Bt)
また、「戦闘力」を数値化する式は、
(軍の戦闘力)=(武器性能)×(兵員数)²
なんだそうです。
第一法則が有史以来の伝統的な戦闘(?)とすれば、コチラの第二法則は情報量の多い近現代の戦闘ってところでしょうかね。
情報量が多くなったので、E(武器の性能差)を除いた数値を二乗して計算しろって事なんですね。
第一法則ではとっても単純な戦いでしたが、近代戦らしく敵の情報をたくさん得ているので、相手をコロす能率が高くなる。
だから「数値」は二乗しろ、とでも理解すれば良いのでしょうか?
今までも繰り返してきましたが、科学的な根拠は全くありません。
とにかく、この方程式をまた変形させましょう。A軍の残る員数はこういう式になります
At =√(Ao²-Ex(Bo²-Bt²))
平方根ですよ、平方根!ムズ。儂、もう解説不可能じゃ(笑)でも、中学校時分にはある程度理解してたような気がする。
で、先程と同様に「A軍が6000名、B軍は3000名、武器の性能は同じでB軍が全滅」という条件でA軍の損害を計算してみましょう。
At =√(6000²-1x(3000²-0))
At =√(36,000,000-9,000,000)
At =√27000000
At =5,196.1524227
A軍の損害、と書きましたが、Atは戦った後の生き残りの人数です。これは背筋が寒くなるような結果でありますね。
兵力の少ないB軍が全滅する激戦であっても、A軍は5000人以上が生き残るのです。
つまり近代戦では同じ性能の武器を使って正面衝突すると、大兵力側が圧倒的に勝つ、とランチェスターさんは言っているのです。
大東亜戦争
戦争末期のフィリピン防衛戦に、アメリカ軍が投入したのは陸海あわせて100万人を越えます。
フィリピンの独立準備政府(コモンウェルス)の戦力を含めると総勢で150万人とも言われています。
損害は戦死が陸軍で15000名ほど、海軍を合わせても20000名に満たない「軽微」なもの。戦病者こそ10万人近く(帝国軍の死を賭した抵抗に精神を病んだもの多数を含む)あったものの、十分な介護が出来る状態でありました。
対して、山下奉文大将の率いる大日本帝国の防衛部隊は50万人強。そのうち、戦死・戦病死を合わせて43万人と言う大損害を被っています。
帝国の本来の領土の一角、硫黄島における戦闘ではアメリカ軍の戦力11万人に対して大日本帝国陸海軍は2万3千名。
損害はアメリカ軍7000名(他に戦傷2万名)、我が軍が戦死1万8千名。
硫黄島では栗林忠道中将の優れた指導のもと、念入りに防衛築城を施し、持久防戦に徹したにも関わらず、の結果であります。
武器の性能比、なんて数値化するのは非常に難しいので、ランチェスターの法則は実戦に適用することはほとんど不可能なんですけれど、
「近・現代戦では勢力が大きな側が地滑り的な大勝利を得る」
と言う意味では、やはりこれは当たっていると見るべきなんでしょう。
さて、それでは兵力の少ない側が、武器も優秀じゃないのに大兵力側に勝つことは出来ないモンでしょうか?
そんなことはありませんよね。
長い長い「連載」で大悪評の、しかし儂は大好きな作品である「継続戦争の終わらせ方」でも、どの戦場でも少数のフィンランド軍が多数のソ連軍に勝利を重ねています。
それも、「武器」そのものは質量ともにソ連軍に劣っていたにも関わらず、です。
偉い学者さんたち、コレを解いてくれねえかな。