仏蘭西の戦艦はクールじゃない。

仏軍猟騎兵と軍艦イラスト アイキャッチ用

 

左後方から見たミストラル級

左後方から見たミストラル級
ウェルドッグも判ります。

 

強襲揚陸艦が

フランスの強襲揚陸艦が我が国に立ち寄り、「売り込みにきやがった」「要らねえ」と話題となりました。

このカッコ悪さは、異様に高い乾舷とブッ細工にちょん切ったような艦首に原因があると思います。

私は「仏蘭西は変態戦艦を建造する伝統がある」とコメントさせて頂きましたので、その仏蘭西の変態戦艦を紹介せねばなりません。しかも変態が我が海軍にも、というお話であります。

画像をご覧いただきましょう。

石見(露戦艦アリョールの降伏直後)

露戦艦アリョールが降伏した直後

 

対馬沖の海戦で完敗した露西亜バルチック艦隊の戦艦「アリョール」が、我が連合艦隊に降伏した際に撮影されたものです。このアリョールは修理されて戦艦「石見」になりました。

如何でしょうか?ズムウォルト(後で出てきます)並にカッコ悪くないですか。
戦艦石見と駆逐艦ズムウォルトは排水量がほとんど変わらないだけじゃなく、基本的な艦形が同じなんです。

日本海海戦で

判りにくいので、戦艦「石見」の画像をもう1枚ご覧ください。

露戦艦アリョール(石見)の被害状況、タンブル・ホームに注意

捕獲戦艦石見(アリョール)の被害状況、タンブル・ホームに注意

 

上甲板が狭く、喫水線に向かって艦の幅が広がっているのがお判りだと思います。
上甲板のボートの下に、人が歩けるキャットウォークがあるくらいです。

甲板が一番広くて、船底にむけて狭くなっていくのが艦艇の常識なんです。
もちろん、凌波性とか防御上の問題で傾け方はいろいろありますが、甲板が一番狭い、って言うのはこの「タンブル・ホーム」と言われる船型だけだろうと思います。

このタンブル・ホームは木造帆船時代からあったようですが、鋼鉄製の蒸気動力軍艦になって、お仏蘭西の海軍が偏愛し始めました。
アリョールも露西亜が仏蘭西に注文して造ってもらった戦艦なんです。

下のイラストは

タンブル・ホームを本格的に採用した最初の艦だろう、と言われる戦艦『オッシュ』の建造中を描いたイラストです。

戦艦オッシュ建造中のイラスト

戦艦オッシュ建造中のイラスト

 

仏蘭西海軍がタンブル・ホームを好んで採用したのは、トップ・ヘビーを避けることに最大の目的があったようです。
軍艦は放っておくと、どうしてもトップ・ヘビーになります。

駆動用の装置(罐と主機~当時はまだレシプロ~)や燃料(石炭)は重心より下に搭載できます。
しかし主砲や副砲とその旋回機構や弾薬、照準のための観測機器、発令所、それから操船用の艦橋は甲板上かその直下になりますし、通風等を考えると兵員室だってそんなに艦底近くには置けません。
その上このころの主力艦は、水雷艇対策として「ミリタリー・マスト」と言う40ミリくらいの大砲を積んだ見張り所をマストに備えていたんです。『オッシュ』のイラストでもマストに異様なデカ物が付いてますよね。
小さいとはいえ大砲をマストに乗せれば、弾薬を上げてやる装置が要りますので、大砲の重みとあいまって、相当な重量になります。

ですから、喫水線から上を絞り込んで(甲板を狭くして)なるべく上部の重量を軽く、水線下の重量を重くしてバランスの良いフネを造ろう、とした訳です。その意気や、善し・・・だった筈なのですが。

次の画像は戦艦シャルル・マルテル

シャルル・マルテル艦首より

シャルル・マルテル艦首より

すぐ前で申し上げたように、軍艦には、どうしても装備しなければいけない装備が付いて廻ります。
客船や貨物船ならちょっと不便を我慢すれば良い、って言うものでも軍艦ならいざという時の浮沈にかかわります。

タンブル・ホームで甲板を絞ったために、仏蘭西戦艦は艦内の容積も小さくなってしまいました。それでも、乗せなければいけないものは乗せなければなりません。
それなら、甲板上に乗せよう・・・となるんですが、その甲板の面積はグッと絞って小さくなってますから、あとは上に積むしかありません。
上に積みきれない艦載ボートは横にはみ出すし、横から見ても煙突が見えないほどの艦橋構造物が立てられるし、トップヘビーの典型みたいな格好です。

はい、シャルルマルテルを横から
船体の下膨れより甲板上のにぎやかさが目立ちます

フランス戦艦?シャルル・マルテル

フランス戦艦シャルル・マルテル

 

戦艦カルノ―、ここまで来るとほぼ漫画の世界です

フランス戦艦カルノ―

フランス戦艦カルノ―

 

当時の建造法は、まだ溶接ではなかった筈です。鋲接でここまで美しく丸みを帯びた船体を造り出すお仏蘭西の技術には脱帽ですけれど、トップヘビーはどうなった?と聞いて見たいような艦上構造物です。

しかも、仏蘭西人ときたら。
これを平気で輸出しちゃうんだから大したモンと言うしかないんでしょうか?
これを騙されて大量に買い込んだのがロシア帝国でありまして、英国製戦艦が主力の東洋の小さな島帝国の艦隊とやり合った結果は皆さま御存じの通り。

まあ、あれは島帝国艦隊の錬度がとんでもなく高かった為で、お仏蘭西ばかりの責任ではありませんが。

フランス製のロシア戦艦がボロクソに負けて、「捕獲(された)戦艦石見」になってからは実際に戦場に出ることは無かったようです。

ところが、であります。海軍の先達、大英帝国の衣鉢を継ぐ、あの米国海軍が不細工な艦を喜んで作ってるんですね。

私はインディペンデンス級は「カッコ悪いからダメ!」っていう立場ですが、米国にはさらにカッコ悪い艦があります。

近海域戦闘艦インディペンデンス級

近海域戦闘艦LCSインディペンデンス級

 

ズムウォルト級です。インディペンデンス級なら3,000tくらいの駆逐艦ですが、ズムウォルト級は「ミサイル駆逐艦」とか言いながら15,000tもありますから、目について仕方ありません。

ズムウォルト級ミサイル駆逐艦

ズムウォルト級ミサイル駆逐艦

 

コイツらが本当に役に立てば文句はありません。有りはしませんが、我が国は絶対に導入するべきじゃないと思う次第なのであります。

もちろん、米国はステルス性に対する配慮からあんな不細工な格好にしたんでしょうけれど。

さらに申し上げれば、フランスはタンブルホームの失敗に懲りたのか、しばらく主力艦の更新を諦めて、水雷艇を整備し始めます。
正面切って海上で大英帝国と争うことはやめて、安上がりなゲリラ戦法を取り入れたんです。

これに苦慮した海軍の本家が考えたのが「水雷艇駆逐艇」、すなわち後の駆逐艦なのです。

我が大日本帝國海軍の清華、駆逐艦がタンブルホームの失敗から生まれ出たなんて、思いたくはないですが(笑)

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