世界の長生き艦列伝

空母ヴィクラマディーティア

長い間活躍した軍艦と言うと、私は装甲巡洋艦「出雲」を頭に浮かべます。
ですが、世界を見まわすと上には上があるもので。

「殊勲艦列伝」とか「幸運艦列伝」なら有りそうだけど、「長生き艦列伝」は他にないでしょう。電脳大本営ならではの企画と自負しております。

もちろんわが国絡みです、ちょっとだけですが。

人間と同じ?軍艦の寿命が延びてきた

大東亜戦争後と申しますのは、造船関連の技術が飛躍的に進歩した時期です。
激烈を極めた幾多の海戦で、艦艇のダメージ研究が進んだことが大きく影響したのだろうと思われます。

この技術の進歩によって、艦艇の寿命が大幅に延びました。
かつては水上戦闘艦で15年から20年とされていたものが、艦齢(建造されてからの年数)30年程度を適正寿命と見なす様に変わってきたのです。

建造技術の進歩に加えて、搭載する兵装が高度化したため建造コストがムチャクチャに高騰したこともあり、現在では適正寿命を過ぎてなお、現役を続けざるを得ない艦艇が多くなってきました。

長命の航空母艦

大東亜戦争のとき、世界で「航空母艦」を実戦運用できたのは日米英の3大海軍国のみでありました。
当時はまだレシプロのプロペラ機を搭載していたもので、運用のハードルは今より格段に低いものでしたが3大海軍国だけだったのです。

ところが、艦載機がジェット化・高速化・大型化してハードルがぐっと上がった現在、曲がりなりにも空母を運用している国は10カ国もあるんです。
米国の他にイタリア(2隻)、インド(2隻)、イギリス、ブラジル、中国、フランス、ロシア、スペイン、タイの各国です。

そのうち、インドの空母1隻がご長命。

インド海軍の航空母艦「ヴィラート」の艦齢は62歳(2015年時点/この文中の艦齢に関してはすべて同様です)にもなります。
自国で建造したわけではなく、イギリス海軍が第二次世界大戦中の1944年に建造を開始、戦後の1953年になって就役した(途中、お金がなくて放置されていた)セントー級の軽空母「ハーミーズ」を輸入したものなんです。軽空母って言っても2万トンあります。

軽空母ヴィラート

インド海軍軽空母ヴィラート

「ハーミーズ」は1981年に退役する予定だったんですが、ちょうどその年にフォークランド紛争が起こりました。
このとき、はじめて空母に「スキージャンプ台」が付いてるのをご覧になった方も多いんじゃないかと思います。

一生懸命頑張ると、国のためになるばかりじゃなく、自分を救うことにもなるのは人間も軍艦も同じです。
インド海軍がV/STOL戦闘攻撃機「ハリアー」の母艦となった「ハーミーズ」に注目し、ハリアーごと引き受けることにしたんです(もちろん大金を払って)。
参考までに「セントー」の完成時のお姿を。控えめなアングルドデッキなんかつけてやんの。(画像はクリックで拡大します)

完成時のセントー

完成時のセントー

インド海軍は2012年を目処に「ヴィラート」を退役させる予定でしたが、後継となる国産空母「ヴィクラント」の建造が遅れたことから、「ヴィクラント」が就役する2018年まで、現役に留まり続けることになりました。

下の画像はインドもう1隻の空母。本文には全く関係ありませんが綺麗なので。

空母ヴィクラマディーティア

インド海軍空母「ヴィクラマディーティア」45500トン

潜水艦にもご長寿が

62年くらいがなんでえ!と威勢がよい?のは台湾海軍。

潜水艦はその性質から、かなりムリをしています。水上戦闘艦に比べて寿命は若干短く、だいたい20年程度。
ところが台湾海軍の潜水艦「海獅」の艦齢は71歳にもなるのです。

「海獅」の前身はアメリカ海軍が第二次世界大戦中に建造したテンチ級潜水艦「カットラス」。

戦果こそ上げてはいないものの、1945年8月には千島方面で哨戒任務を行っている、立派な老兵です。
「ヴィラート」の前身「ハーミーズ」なんか第二次大戦には間に合ってませんから、「海獅」が大きな顔をしたがるのも当然でしょうね。

海獅の艦上に整列する水兵

「海獅」の艦上に整列する水兵

「カットラス」はもう1隻、1946年に就役したパラオ級潜水艦「タスク」(台湾海軍では「海豹」)と共に台湾海軍に引き渡され、どちらもまだ現役を続けています。

ただ、今では深く潜航すると危険だという事になってしまい、浅い海域で水上戦闘艦や航空機の対潜戦闘訓練の相手役として頑張っているそうです。

台湾海軍はお金がないって訳じゃなく、何度も後継艦の導入を試みたのですが中国への配慮から実現していないのです。
「海獅」と「海豹」も退役のメドが立っていません。

こうなると現役が長いのが幸せなのか、辛いのか判らなくなってまいります。

世界最長寿艦(たぶん)は

「ヴィラート」の艦齢62歳もかなりのものです。
潜水艦として71歳と言う超長命の「海獅」は、もう常識では考えられないと言っても過言ではないでしょう。

しかししかし世の中、上には上がいます。
フィリピン海軍のフリゲート「ラジャ・フマボン」の艦齢は72歳(!)に達しています。

よわい70歳を超えて、まだまだ矍鑠としておられます。

はつひ元米アザートン、現フィリッピンのラジャ・フマボン

護衛艦「はつひ」

つい数年前まではフィリピン海軍の旗艦をお努めでした。ですから「4番でエース」の座は若い選手に譲ったものの、立派にレギュラーを張ってる、と言っても良いのではないでしょうか。
この点、台湾海軍のご老体が「バッティング・ピッチャー(ですよね?味方のバッターの練習台になる人)」にお成りになっちゃったのとはいささか異なります。

南シナ海の支配権を巡って、常識をわきまえない大国と対峙するフィリピンだからこそ、こんなに長い時間を使い続けるんでしょうか?

「ラジャ・フマボン」の長い生涯には、かつては世界を震撼させた超一流の海軍に在籍していた期間もあったのであります。

アメリカで誕生

第二次大戦が始まると、アメリカ海軍は太平洋でも大西洋でも、護衛艦艇の不足を痛感しました。

そこで低性能でも良いから、早く・安く・大量に作れる「護衛駆逐艦」を建造することにしました。
これって、どこの海軍でも考えそうなことですが意外に思いつかないんですよ。
海軍の本家イギリスは、かなり本格的な駆逐艦(戦前の建造艦よりは低性能ですが)を何種類も大量に造ってますし、大日本帝国海軍は追い詰められて松型を考案するまで、「個艦優越」にこだわっていましたから。

でも考えて見ますと、護衛の対象が15ノットも出ない急造輸送船、戦う相手は水中速力8ノットから10ノットの潜水艦なら、速力は要りませんし、優秀な主砲も必要ありません。こんなの(性能はすぐ後ろに書きます)で十分だったんです。

我が海軍の松型も、低性能でも良く活躍したものです。

桁違いの建造数

お金持ちの超大国だけありまして、アメリカ海軍は一口に「護衛駆逐艦」といってもいろんなタイプを造りました。

大日本帝国海軍だって、華やかな頃は「艦隊型駆逐艦を一年(の予算)で12隻」なんてことをやったこともありました。

護衛駆逐艦アザートン

護衛駆逐艦「アザートン」

でもアメ公は桁が違います。
「護衛駆逐艦」カテゴリだけで、各型合わせて450隻(およそ2年で設計から就役まで完了)!
同時に戦艦・空母・重巡・軽巡・本格駆逐艦・潜水艦を我が聨合艦隊の二セット分以上作りながら、ですからね。
こういう国と事を構える時は、じっくりと戦略を練っておかねばなりません。

さて、話をご長寿に戻しましょう。

戦後は西側各国へ

このうちキャノン級護衛駆逐艦は、1943年から就役を開始して2年間で72隻が配備されました。

基準排水量1240トン、速力21ノット、兵装は3インチ単装砲三門に対空機銃、ヘッジホッグとK砲(片舷用の爆雷投射装置)8基など。

完全に対潜・対空戦闘専門装備で水上戦闘など考えてません。
つまり輸送船団を護ることだけが任務の、文字通りの「護衛駆逐艦」です。

その中に「アザートン」と言う一艦があったのでございます。

アザートンの戦歴をWikiで見ると、「1945年5月6日、ドイツUボート艦隊の潜水艦をアメリカ東海岸で他の艦との共同で撃沈。」とあります。ぎりぎりセーフで一隻撃沈です。

戦争は後3ヶ月ほど続きましたが、アザートンにとってもキャノン級にとっても、たいした事もなく過ぎ去ります。

ドイツが降伏し、大日本帝国も屈服して第二次世界大戦が終わってみると、正規の駆逐艦よりかなり性能の低い(キャノン級を含めた)護衛駆逐艦には、退役の運命しか待っていませんでした。
性能が低くても、保管・整備にはそれなりにお金が要りますから。

しかしスクラップを待っていた護衛駆逐艦たちに、幸運が訪れます。
勝利した連合国が東西に分裂、冷戦が始まったのです。

戦争で疲弊していた西側は満足に海軍を整備することができません。そこで護衛駆逐艦たちはイタリアや半島の南側などに供与されることになったのです。

大東亜戦争で叩き潰して見たものの、アメ公にとって日本は地政学的にも補助戦力としても超重要でした。
そこで新たな軍隊として「自衛隊」を創設させ、海上自衛隊には「アザートン」・同型艦の「アミック」を供与してやることにしました。

「アザートン」は「はつひ」、「アミック」は「あさひ」として、約20年間にわたって戦後日本の海を守り続けました。
この間、大日本帝国海軍の伝統で徹底的かつ丁寧な整備を受け続けて、急造艦ながらも性能を維持しています。

「はつひ」と「あさひ」は33歳になった1977年、海上自衛隊を退役してアメリカ海軍に還されることになりました。

両艦は当時の平均寿命を越えておりましたので、そのままスクラップでも不思議はありません。しかし、列島国なので海軍力を強化したい、でもお金のないフィリピン海軍が狙いを付けていました。

「はつひ」は「ラジャ・フマボン」、「あさひ」は「ドゥツ・シカツナ」として、フィリピン海軍で再び活躍することになったのです。

「ラジャ・フマボン」と「ドゥツ・シカツナ」は1990年代初頭、台風の被害を受けて一度退役したのですが、「ドゥツ・シカツナ」をパーツ取り用に活用して「ラジャ・フマボン」を復活させ、なんとフィリピン艦隊の旗艦を務めるようになりました。

2010アザートン改めラジャ・フマボン

2010年の「ラジャ・フマボン」

南シナ海への大陸国支那の進出は、最近でこそ日本・アメリカの関心を集めていますけど、今に始まったわけではありません。
フィリピンはその脅威をずっと感じ続けていて、2011年にはアメリカ沿岸警備隊から大型の巡視艇を導入しました。

これが「ラジャ・フマボン」の後継艦となるはずだったらしいのですが、「ラジャ・フマボン」は旗艦の地位を譲っただけで現役は退きませんでした。

実現はしなかったようですが、ミサイル・キャリアへの改造も検討されてたみたいです。

三カ国はすべて日本の味方

ここで取り上げた三国は、支那と対峙する日本にとって味方につけておきたい国々ですね。

海軍の先輩国として手助けして上げられることが、沢山あることがお判りいただけるんじゃないでしょうか?

しらね空撮

退役済みの「しらね」空撮
フィリッピンに差し上げたら良かったのに…

わが国が現在の技術で建造した護衛艦なら、アメ公の急造艦より長持ちすることは疑いなしだもんなぁ。

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