支那に対する機雷封鎖は有効か~日支戦争の展開~

掃海艦やえやま

尊敬はできませんが、まあ良く読ませていただいている「兵法家」の兵頭二十八氏。
たぶん、氏の真意じゃないと思いますが、支那との戦いについて(酷い)意見がありましたので紹介させて頂きます。

支那は機雷なんか撒かないし

こちらをご覧いただきましょう。

いかがでしょうか?私は兵頭二十八が「鳥頭」になってしまったぁ、と思いましたよ。
リンク先で全文読むのが面倒な方も、ご心配なく。

兵頭二十八

「鳥」頭二十八大先生

少しずつ引用しながら論を進めてまいります。
記事の前提は「日米同盟解消、それに代わる多国間安全保障体制もナシ」になってしまった我が国が支那からの圧迫を受けている、と言う状況であります。氏ノタマわく。

まず尖閣の領海に機雷を敷設し、それを公表する。これは主権国の権利なのだが、チンピラの中共は必ず、わけのわからないことを叫び、軍艦か公船か漁船を出してきて、触雷するだろう。そのうえもっと軍艦を送り込むので、わが国は「自衛戦争」を始められる。

うーん、軍艦か公船か漁船って言っても、どれが機雷に触れるかでその後の展開も変わってくるはずなんだけど、一緒くたに論じちゃうのね。
そもそも、支那の軍艦はまだ尖閣海域で領海侵犯はしてないですよね。

このことが、支那政府が緻密な計算の下で尖閣を取りに(続いて沖縄狙い)来てる証拠ですけどね。

「自衛戦争」が始まるかどうか、電脳大本営は大いに疑問とするところであります。
大体、機雷封鎖されてる所へ、なんで自国のフネ入れるんだか?です。「小日本が不法にも我が国領海に機雷を敷設」って非難できるチャンスなのにね。

こっちは弱い老人だから体力のあるうちに早く決着をつけなくてはならぬ。すぐ、中共本土の軍港前にもわが潜水艦によって機雷を撒き、それを公表する。同時に黄海や上海沖で潜水艦によって敵軍艦も雷撃させ、わざとらしく「機雷が作動したと思われる」とアナウンスする。

もう戦争始めてるんでしょ?早く決着つけるんなら、お説とは逆に触雷でも「我がそうりゅう級が…」とアナウンスすべき。

そうりゅう級と軍艦旗

そうりゅう級と軍艦旗

その方が潜水艦の行動を隠匿できますし、敵船の行動を掣肘できる可能性が高い。
この人、ホントに軍事が判ってるんでしょうか?

すると中共海軍の防衛ドクトリンがスタートする。彼らは外国軍の潜水艦を北京や上海に寄せつけない手段として、漁船を動員して大量の機雷を撒かせることに決めているのだ。こっちが機雷を撒くと、向こうも機雷を撒く。レバレッジ(梃子作用)が働いて、わが自衛行動が数倍の効果を生むのだ。

これは日露戦争の旅順港閉塞作戦からの連想なんでしょうね。
あるいは、良く「自分で考えない系」の方々の主張にある「潜水艦に対抗するのは潜水艦」みたいに、「機雷には機雷で」思考なんでしょうかね。

日露の場合は「封鎖」と言うより、相手のルーティン化した行動を読んだ「狙い撃ち」の応酬と言うべきでしょう。これはマトモな戦史を表面的にサラっと読むだけでも判ります。

内陸部にある北京への敵潜水艦の接近を阻むために機雷を播く、っていう「中共海軍の防衛ドクトリン」が本当だとしても、その発動のきっかけが日本の機雷敷設だ、っていうのは論理が飛躍しすぎでしょう。

さらに有利な展開へ?

二十八さんのアタマはさらにぶっ飛んで行きます。

自分たちで撒いた機雷により、シナ沿岸は半永久に誰も航行ができない海域と化す。中共に投資しようという外国投資家も半永久にいなくなる。なにしろ、商品を船で送り出せなくなるのだ。

外国船籍の原油タンカーがシナ沿岸には近寄らなくなる(無保険海域となるのでオーナーが立ち寄りを許可しない)結果、中共沿岸部の都市では、石油在庫はたちどころに闇市場向けに隠匿されて、表の市場には出てこなくなるだろう。他の生活必需物資も同様だ。

自国領海内ですから、支那水軍の支那大陸沿岸への機雷敷設は整然と行われるものと思われます。

いくら「水軍」でも敷設ポイントを記録しないなんて考えられますか?

防衛的な機雷封鎖の場合、安全航路を確保(敵には判らないように)しておくのは定石中の定石。もちろん誤って自軍の機雷に触れることはありますけどね。

伊30

フランスのロリアン軍港を出港する伊30

代表的なのがインド洋・大西洋を無事往復してきたのに、帰国目前のシンガポール出港時に、港湾防衛用の機雷に触れちまった第一次遣独潜水艦、伊30(遠藤忍艦長)です。この事故は入港時と出港時の潮位の差を読み誤ったため、とされています。

無保険海域となる?我が精鋭掃海艦隊まで投入されたホルムズ海峡って、「無保険」になりましたっけ?

これには少し説明が必要かもしれません。
船舶保険は一次引き受け会社(ブローカー)が航行ごとに引き受け、その保証保険(再保険)を引き受ける「協同組合」がロンドンにある「ロイズ」です。

ロイズ保険組合ビル

ロイズ保険組合ビル
えらく近代的なんだけど。

説明が簡単になるように「協同組合」と表現しましたが、ロイズは実際には取引ルームや事後の事務サービスを提供している言わば会員制喫茶店兼事務員付き貸事務所みたいなものです。

このロイズの会員には300を超えるシンジケート(保険に出資する個人・法人が状況に応じて組織する)があり、ブローカーは大きな保険なら幾つかのシンジケートに分散して再保険を引き受けてもらいます。

従って「ロイズが再保険引き受けを断る」なんてことは99パーセントありません。引き受け条件が悪くなる(保険料が高くなる)だけです。

ロイズの鐘

ロイズの鐘
近代的なビルのてっぺんにある、タイタニック沈没時にも鳴らされた伝統の鐘

船舶保険は支那政府(の意を受けた支那の保険屋)が受けるし、その再保険もロイズががっぽり儲かるように受けますから、「無保険海域」なんてなるわけないんです。

支那は大陸国だぜ?

さらに支那の特性を、二十八大先生は全く無視しておられます。
日本や台湾などの島国(=海洋国家)と違い支那は完全な大陸国家であります。

仮に海運が途絶したとしても、「商品を船で送り出せなく」なるだけで、陸路での輸出は可能。石油の輸入もミャンマーとの間にパイプラインが出来てますから、ミャンマーへ陸揚げして輸送することが可能。このパイプラインを破壊する作戦はかなり困難が伴うでしょう。

また、ロシアとは天然ガスのパイプラインがありますので、エネルギーではそんなに困らないでしょう。こっちの破壊作戦は「不可能」と諦めるか、ユーラシア大陸そのものを敵に回す覚悟をしないと無理ですね。

どちらにせよ、鳥頭二十八氏の前提のごとく「日本単独」であれば「大陸国」支那の陸上輸送路を封ずることなど不可能です。将来的に我が国力が大幅に成長するまでは。

「領海侵犯船は撃沈せよ」が電脳大本営の主張

ここで確認しておきましょう。
電脳大本営では今まで、支那の東シナ海や南シナ海での無法横暴ぶりには「撃沈すべし」と主張してきました。
「海上封鎖しても、支那には勝てないんじゃあ、撃沈したらアカンやん。」と言うご反論もあろうかと想像いたします。

でもそれと支那経済の壊滅を狙って機雷を敷設する、っていうのは意味が違うんです。
東シナ海で尖閣などの領海に入ってきた支那艦船を沈めてやるのは「警告」の意味合いが強く、支那はギャアギャア喚きながら数年間は領海侵入をして来なくなります。支那の取りうる反撃は「わめく」だけです。

支那空母遼寧

支那の空母風練習艦「遼寧」

 

それ以外の対応としては「艦隊決戦を求める」ことしかありません。
これぞ我が海軍が待ち望むシチュエーションであります。艦隊決戦勝利=不敗態勢の確立(我が離島にすら上陸不可能になり、我がシーレーン封鎖は夢物語になる)であります。

しかし、支那のシーレーンを破壊する、となると様相が変わってしまいます。
鳥頭二十八氏の論のように、機雷だけで封鎖することは出来ませんが(それほど大量の機雷がないから)、仮に我が国の海軍力を全面的に使用して支那のシーレーンを破壊しようとすると、却って我が国に不利に働く要素が強いのです。

つまり、支那艦隊を彼が有利なフリート・イン・ビーイング戦略に追い込んでしまう可能性が高いのです。
フリート・イン・ビーイング戦略とは、ご存じの方も多いでしょうけれど「艦隊保存戦略」。

フィヨルドに潜むティルピッツ

フィヨルドに潜むティルピッツ
フリートと言うよりは単艦ビーイングだったが、ロイヤルネイビーは大苦労。

 

つまり海軍力不利な側が、敵艦隊との接触を出来るだけ避けて敵シーレーンへの奇襲攻撃を狙う戦略です。いつ出撃してくるかわからないために、仕掛けられた側は大規模な警戒艦隊を配置せざるを得ません。

比較的小規模な艦隊で敵の大規模な艦隊を拘束し、かつ長期に渡れば整備不良や乗員の過労からの戦力低下も望める、大陸国にうってつけの戦略です。

その代り制海権を取ることは絶対にできませんから、海運に頼る海洋国家側は執ることが出来ない戦略なのです。

余談になってしまいますが、北チョソのミサイルが我が国のEEZに着弾して、その発射の兆候がつかめなかった事で、迎撃のためのイージス艦を常時日本海に展開するようです。

こんごう

イージス艦「こんごう」

これも一種のフリート・イン・ビーイングだと言えるでしょう。
わが国にイージス艦は8隻しかありませんので、日本海で常に一隻必要となれば南シナ海への即応に困るばかりか、定期整備や乗員の休養にも困難を覚えることになるでしょう。

支那の場合、大陸国であることに満足せず、海洋支配にも色気を見せています。
日支開戦となれば向こうから海に出てきてくれる可能性が高いと判断しますが、我が方が役にも立たぬ「大陸封鎖」を試みると、支那水軍が防備を固めて引っ込んでしまう可能性が高くなるのです。

鳥頭先生のおっしゃる「機雷による支那大陸の海洋封鎖」は実現可能性もありませんし、効果もなく、かえって支那有利な態勢へと敵を追いこんでしまう可能性が高い、と言うこと。

支那と戦争をした場合、我が国に北京まで攻め込んで城下の盟を強要する戦力は残念ながらありません。
もっとも現実的な勝利の方法は、緒戦に近い時期で支那水軍を叩きに叩いて列島周辺から南シナ海全域の制海権を確保、機に応じて沿岸の軍事施設・工業施設を潰しながらウィグル・チベット・モンゴルの独立運動と漢族の内紛を煽る事だと考えます。

逆に我が国が最もやられたくないのが、フリート・イン・ビーイングと支那からの機雷戦なのです。

わが国がやられたくない機雷戦については、ただいま執筆中です。

以上、兵頭二十八氏が3歩あるいて鳥頭になってしまったお話でありました。氏の本音でないことを願います。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA