米中経済戦争はホットウォーになる!
我が国の首相がアメリカとの「仲裁」を狙ってイランを訪問中だというのに、ホルムズ海峡至近の海面で日本の会社のタンカーなどが襲撃される「事件」が起きました。
アメリカはどっちに本腰を入れるのか?
アメリカはすかさず「イラン革命防衛隊の仕業だ」とか言い出し、イランは「そんなワケないやろ」と言い返す泥試合。真相は簡単には判明しないでしょうが、総理大臣まで行ってる我が国の立場はどうしてくれるんだよ(笑)
まあ、電脳大本営の想像するところでは、安倍総理(すなわち我が国)によってアメリカ・イラクの対立が解消に向かうと、国益にそわないお国(または影響下にある組織)の犯行でしょう。
アメリカはChinaとの対決に、大げさに言ってしまうと国運を賭けているように思われるからです。イラクとも対立はしていますが、これは宗教がらみの対立です。ところがChinaとは「国家・国民の理念をかけた戦い」であるように思えるからです。
今現在は貿易戦争・経済戦争の段階ですが、必ずやホンモノの戦争になりますね。
そう言い切れるのは、アメリカの国防総省が発表(6月1日)した「インド太平洋戦略報告」(PDFです、悪しからず)に濃厚に匂わせてあるからです。
この「インド太平洋戦略報告」の発表直前である5月31日から、シンガポールで「アジア安全保障会議」が開催されています(~6月2日)。「シャングリラ会合」とも呼ばれる国際会議で、毎年一度の開催です。
アジアを中心とした国々の国防大臣や安全保障の専門家が一堂に集う国際会議なのであります。このシャングリラ会合で、6月1日にシャナハン米国防長官代行が基調演説を行い、その中で「新たなインド太平洋戦略を発表した」と言ったのです。
この経緯から、「インド太平洋戦略報告」は今年のシャングリラ会合にぶつけるために起草されたと見て良いでしょう。
このような「報告」が発表されたのはたぶん初めてでしょう。政権内部や軍内限りの研究ではしょっちゅうあったことでしょうけれど。「報告」の中身をざっと見ただけで「Chinaにどう対処するか」を、アメリカの今後の安全保障の最重要課題と位置付けていることが判ります。
アメリカはChinaをどう思っているんだ?
「報告」は「インド太平洋」という地域限定であるはずなのに、その基調は「自由世界vs抑圧的統治」という世界観になっています(私の語学力では、この程度しか読み取れませぬ)。
もちろん「自由世界」の盟主がアメリカで、「抑圧的統治勢力」はChinaです。世界の覇権を賭けた地政学的な戦いがいま、起きていることがアメリカの安全保障上の主要な懸念、と考えているようなんですね。
この報告は30ページもありますから、本来のインド太平洋地域についても結構詳しく言及しています。なかでも台湾について、この地域でアメリカとの「パートナーシップ」を強化する4つの「民主主義の国家の一つ」として名指ししています。
「インド太平洋地域の民主主義の社会がある地域に、シンガポール・台湾・ニュージーランド・モンゴルは信頼でき、有能で、米国の自然なパートナーである」「自由で開かれた国際秩序を維持するために積極的に行動を起こしている」といった感じですね。
台湾についてはさらに踏み込んでいまして「強靭さと繁栄を続ける民主主義の台湾」を支持し、インド太平洋地域の広範な取り組みの一環として、台湾関係法を実施するとしています。Chinaが台湾に圧力をかけていて「高度な軍事作戦の行使の可能性を排除していない」ことを警戒しています。
私は、これを「中東でイスラエル支持を鮮明にしていること」と同じ文脈で捉えるべきだと考えます。
つまり、トランプ以前のアメリカは経済的な不利益を考えて「イスラム的」やら「抑圧政治的」なモノに譲歩していたのですが、「イスラム的やら抑圧政治的なモノ」を安全保障に直結する問題と認識したトランプ政権は、経済を二の次にしてでも「民主主義の勝利」を志向するってことです。中東の場合は自国のシェールオイルとの価格バランスも考えてるでしょうけどね。
台湾に戻りましょう。報告では、「Chinaは武力によって台湾を統一できる状況が勃発した時に、第三国の介入を受けないように『圧力』『時間稼ぎ』『阻止』といった手法を準備している」としています。China軍が台湾への圧力として、海峡周辺の軍事練習や軍用機・軍艦の航行を増加させたとも述べています。
「独立」は封印していますが、保守派の蔡英文総統が就任して以来、2016年に「サントメ・プリンシぺ(地図1)」、2017年には「パナマ(地図2)」、2018年、「ドミニカ(地図3)」「ブルキナファソ(地図4)」「エルサルバドル(地図5)」と5ヵ国が台湾と断交して、Chinaと国交を結びました。
アメリカにとっては、「甘い顔してたら、ウチの裏庭でカネにモノを言わせやがって」というところでありましょう。
台湾は世界保健機関(WHO)総会(毎年5月にジュネーブで開催)にすら、2017年からChina共産党政府からの圧力で出席できていません。日本・アメリカ・ドイツ・オーストラリアなどは台湾の総会出席を支持しているのですが。
こういった面でも、Chinaは台湾の国際社会からの締め出しを進めているのですから、「民主主義国」を守る立場のアメリカとしては支援せざるを得ません。
得ませんが、今までの大統領(特にクリキントンとかオバカとか)が経済優先・安全保障軽視の思想からはっきりと台湾を「国」としては扱ってこなかったのです。
今回アメリカはトランプの決断(たぶん)で、Chinaが「核心的利益」としている価値観の一つである「一つのChina」という領域まで否定しちゃいました。
この「台湾への支援」について、報告書では「台湾が安全で自信を持ち、脅迫から解放され、平和的かつ生産的にChinaと対話できるようにすることを目的としている」となっています。
私たちにはずいぶん消極的に見えますが、「台湾は自国の一部」とするChinaからみると、これはかなり踏み込まれた表現でしょう。完全に別国扱いですからね。
電脳大本営の見るところ、これはアメリカとChinaが正面衝突コースに入ったことを意味しています。
「インド太平洋戦略報告」へのChinaの反応はいまだに出てきていないようです。トランプ関税と技術移転の禁止措置への対応でアップアップのChinaですから、激烈に怒っていても表面には出せないのでしょう。
ここへきて香港の民主派デモにも屈してしまいました(でも、香港はこれから酷い目にあいますよ。詳しくは別記事に書きます)から、China共産党と習近平国家主席の怒りはいかばかりか?私は楽しくって仕方ありません(笑)
開催の迫る「大阪G20」でトランプ大統領・習国家主席の直接会談が行われるかどうか?が話題になってますが、台湾(と香港)の問題がネックになりますから、習近平のほうが会談を回避するんじゃないか?と思いますね。
花札は選挙期間中からこのつもりだった、と思うぞ
このような認識は、早くも2017年12月に発表された「国家安全保障戦略」にも目立たない形でしたけど、登場していました。「アメリカが直面している課題は、人間の尊厳と自由に価値を置く勢力と、個人を抑圧し画一主義を強制する勢力との根本的な対立である」といった意味の記述があったのです。
つまりドナルド・トランプは当初から、いや選挙を戦っているときから「Chinaとの対決」を「自由を抑圧する勢力との決戦」と位置付けて周到に準備してきたのでしょう。
貿易戦争・関税戦争はあくまでも開戦に至る旗印に過ぎません。この戦いの核心は「自由か、それとも独裁者による抑圧か」なのですから。
アメリカはこうした「善悪の対立構図」で特定の国を叩くのは大の得意技です。湾岸戦争もそうでしたし、そもそも「冷戦」もこの構図でした。
1947年に当時のハリー・トルーマン大統領は「ソ連は恐怖と圧政で成立している。アメリカは外圧による征服に抵抗する自由な諸国民を支援する」と演説で述べ、コレが対ソ宣戦布告(冷戦でしたけど)となりました。「トルーマン・ドクトリン」でありますね。
インド太平洋戦略報告はChinaとの戦いを定義するのに「トルーマン・ドクトリン」と同じ言葉遣いを選んでいます。言うなれば「トランプ・ドクトリン」でありましょう。
トランプ大統領が「トルーマン・ドクトリン」を意識していたかどうかは不明です。ですが、「インド太平洋戦略報告」の策定段階でも、発表された後でも、政権内部からの反対論は聞こえてきませんね。
いつもトランプ大統領の発言に、側近がナンダカンダと文句をつけるのが政権の習いになっているのにね。
つまりアメリカはChinaとの戦いを「自由という国の理念をかけた戦争」と国レベルで捉えているっていうことじゃないんでしょうか?
この「報告」でもう1点注目すべきだと思いますのは、「共産党が支配するChina」と言う表現であります。
「諸国民が自由市場や正義、法の支配を渇望しているにもかかわらず、China共産党が支配するChinaは、自国の利益をむさぼることによって、国際システムを傷つけると同時に、ルールに基づく秩序の価値や原則の数々を侵している」
アメリカは「China国民」と「China共産党」を区別するだけじゃなくて、「敵対関係」だとしたいようです。トランプ大統領のアメリカが戦っているのはChinaという国ではなく、China共産党だと言っているのです。
これは電脳大本営が常々言っていることですが、Chinaと実戦になった場合、我が国は負けることはありませんが、「城下の盟」を強いることもできません。これは超大国アメリカといえども同様です。もっぱらChinaの国土の大きさと人口の多さに依るんですけど。
Chinaとの戦いには、「どうやって勝を確定するか?」という問題を常に考えておかなければいけないのです。
その方策の一つが共産党(一般党員を含む)と国民の分断でしょう。多数の民族も分断しなけりゃいけませんが、まずはココ。Chinaの国民も共産党員も共産党の幹部も、その気になったら読めるであろう、アメリカ政府の「報告」にその分断志向を堂々と書いちゃったところに、私はトランプの本気を感じます。
そして私が「米中ホットウォー」を予測するのも、この分断策の故であります。
歴史的に見ても、Chinaの王朝が滅ぶときは「国内」が分裂して相争っています。そのことは、習近平が一番よく知っていることでしょう。
恐ろしい国内分断を防ぐには、「外敵」を設定して国民の支持を集めるのが一番、ってことも、習の良く知るところでありましょう。
シャナハンはクビになりそうだけど
演説をやらかしたシャナハン米国防長官代行は、国防長官への就任を断って代行もクビになりそうであります(6月中旬のニュース=シャナハン氏が国防長官辞退=代行にエスパー陸軍長官-米)。ただ、6月のはじめにシャングリラ会合でぶち上げた演説はちゃんとトランプ大統領の意向通りだったと思われます(電脳大本営の思い込みかも知れません)。
シャナハン演説は「インド太平洋戦略に関する報告書を公表した!」と言っていますが、この報告はかなりの分量で従来のFOIP(Free and Open Indo-Pacific Strategy=2016年8月にケニアで開いたアフリカ開発会議(TICAD)で安倍晋三首相が打ち出した外交戦略)戦略の経緯や現状を分析したうえで、「修正主義勢力たる中国」「復活した悪意ある勢力ロシア」「ならず者国家北朝鮮」についてもはっきりと記述しています。
つまりはシャングリラ会合におけるシャナハン演説とは、FOIP戦略を説明しただけ、ともいえるのであります。
シャナハン氏の演説の方に注目してみると、ポイントが3つほどあるように思われます。
第1、シャナハン長官代行は「FOIP戦略の主たる対象」がChinaであることを前提に(つまり具体的国名には言及せずに)、Chinaを厳しく批判していること。
「一部の勢力が間接的漸増的な行動とレトリックを使い、他国を経済的外交的に搾取し、軍事的に威圧し、地域を不安定化させ、彼らの独占的優位を確立すべく活気ある多様な地域社会の秩序を再編成しようとしている」。
これほど厳しい批判はいままでなかったと思いますよ。
そしてこの「一部の勢力」が用いる「典型的手法」として
①係争中の領域を軍事化するために先端兵器を配備する
②他国の内政に影響力を及ぼすための様々な工作を行う
③略奪的な経済活動や借款を通じ他国の主権に関わるような取引を行う
④他国の軍事・民生用技術を国家ぐるみで窃盗する
さすがシャナハン、Chinaの手口が判ってんじゃん。
第2、FOIP戦略の内容が大変に具体的に語られています。
①FOIP戦略は単なる言葉だけではない。
②FOIP戦略には国防総省の予算配分という裏打ちがある
③これは単なる戦略ではなく、具体的な諸計画を伴うものである
④諸計画には宇宙・サイバー・対潜水艦・戦術航空機・C4ISRミサイル防衛などが含まれる
あの、シャナハンはん。ウチの安倍総理はそこまで言ってないと思いますけど…総理は「パヨ」って難敵を抱えて参議院選挙を控えてるんですから、お手柔らかに(笑)FOIP戦略は確かにウチの安倍ちゃんが言い出したことに間違いないけんどな。
第3、シャナハンはんは演説で、「FOIP戦略において共通目標を支援する協力的な地域安全保障ネットワークの構築を進めている」「関係各国は主権を厳然と確保し、独立した決断を行うための能力獲得に投資してほしい」と言っています。
つまりはアメリカの同盟国・パートナー国に防衛能力と抑止力を強化するよう求めているんですよ。「ネットワーキング」と「投資」を駆使してね。
どうでしょうか。今回のシャングリラ会合の演説で、シャナハン国防長官代行は(つまりアメリカは)最近のChinaのやり口を具体的かつ厳しく批判していますよね。
国防総省が国防予算をFOIP戦略に重点的に投入するとともに、同盟国・パートナー国とより緊密で具体的なネットワーク化を進め、その中で統合作戦や共同作戦を実施することにも言及しているんです。
アメリカはインド洋・東アジア地域で、新たな安全保障の枠組みの構築に向けて、本気で動き出したように思われます。
ただ、問題がないわけではありません。まず、この新たな枠組みに参加する国々が確保できるのか?
オーストラリアは参加するでしょう。問題は韓国やフィリピンといった米国の同盟国でありながら中国への配慮を余儀なくされる(つまりChinaへの経済依存度が高い)諸国でしょう。
仮にこれらの国が参加したとしても、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国もどこまで参加してくるか?私は心配です。インドの参加はさらに重要だと思いますが、China嫌いな国だからと言って、100%手放しで良いわけではないでしょう。
このあたりが、我が国の重要性をトランプさんに認識させる大きなポイント(軍事力・経済力以外に、です)になるでしょう。今度の戦争は上手いこと立ち回って「戦後の世界」での存在感を高めなければいけませんよ。